薬物別―覚醒剤
1 薬効など
覚醒剤(覚せい剤)の通称には、シャブ、クスリ、S(エス)、スピード、アイス、クリスタル、ヤーバーなどがあります。
主に白色の粉末や無色透明の結晶の状態で流通しており、無臭でやや苦みがあります。
覚醒剤は、「突き」と呼ばれる静脈注射によって摂取する方法か、「炙り」と呼ばれる覚醒剤をライターなどで炙って煙を吸引する方法による使用が一般的です。
覚醒剤を使用すると、神経が興奮し、眠気や疲労感がなくなり、頭が冴えたような感じになります。
しかし、効果が切れると、激しい脱力感、疲労感、倦怠感に襲われます。
覚醒剤は、依存性が強く、使用を続けると幻覚や妄想が現れたり、錯乱状態になったりすることがあり、このため、暴行や殺人など、重大な犯罪を引き起こすことがあります。
このような症状は、使用を止めても長期間残る危険性があります。
また、大量の覚醒剤を摂取すると、意識を失ったり、ひどいときには死亡したりすることもあります。
覚醒剤取締法では,覚醒剤の輸入・輸出,所持,製造,譲渡・譲受,使用等が禁止され,それぞれに厳しい罰則が科されています。
覚醒剤を営利目的で輸入,輸出または製造した場合は,法定刑に無期懲役が含まれているため,裁判員裁判の対象事件となります。
その他にも「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(麻薬特例法)」による規制もあります。
覚醒剤取締法は,フェニルアミノプロパン(「アンフェタミン」)、フェニルメチルアミノプロパン(「メタンフェタミン」)を覚醒剤としていますが、わが国で覚醒剤として乱用されるのは主にメタンフェタミンです。
2 法定刑と裁判の種類
(1)覚醒剤
ア 輸出・輸入・製造
①営利目的がない場合
法定刑は1年以上の懲役です。通常の公判手続に付されます。
②営利目的がある場合
法定刑は無期若しくは3年以上の懲役で、情状により1000万円以下の罰金を併科されます。法定刑に無期懲役が入っているので、裁判員裁判に付されます。
イ 譲渡・譲受・所持・使用
①営利目的がない場合
法定刑は10年以下の懲役です。通常の公判手続に付されます。
②営利目的がある場合
法定刑は1年以上の懲役で、情状により500万円以下の罰金を併科されます。通常の公判手続に付されます・
(2)覚醒剤原料
ア 輸出・輸入・製造
①営利目的がない場合
法定刑は10年以下の懲役です。通常の公判手続に付されます。
②営利目的がある場合
法定刑は1年以上の懲役で、情状により500万円以下の罰金を併科されます。通常の公判手続に付されます。
イ 譲渡・譲受・所持・使用
①営利目的がない場合
法定刑は7年以下の懲役です。通常の公判手続に付されます。
②営利目的がある場合
法定刑は10年以下の懲役で、情状により300万円以下の罰金が併科されます。通常の公判手続に付されます。
3 弁護活動
①身に覚えがない場合
覚醒剤の所持や譲り渡し等の事件では、たとえば中身を知らされず運ばされた場合のように、違法な物とは知らずに行った行為で検挙されることが考えられます。
違法性の認識については、それが覚醒剤であるという認識までは要求されず、違法な薬物であるという程度の認識で足りるとされているため、知らなかったという弁解はなかなか通用しませんが、本当に知らなかったような場合には、犯罪が成立しないのですから、客観的な状況をもとに無実であることをしっかりと主張する必要があります。
②身に覚えがある場合
仮に覚醒剤取締法違反事件などを起こしてしまっていたとしても、それが捜査機関による違法な捜査によって発覚したものであれば、その違法性ゆえに不起訴処分や無罪判決を得られる可能性があります。
ですから、職務質問、所持品検査、採尿・採血、捜索、差押え、逮捕、勾留、取調べなど各捜査段階において、重大な違法行為がなかったか・それによって重要な証拠である覚醒剤・麻薬が収集されたのではないかという点を徹底的に調査して不起訴処分や無罪判決の獲得を目指します。
覚醒剤取締法違反などに争いがない場合は、可能な限り寛大な処分が下されるように、効果的な情状弁護を行っていくことが大切です。
具体的には、犯行を素直に認め反省している旨の意思表示をした上で、薬物に対する依存性・常習性がないこと、再犯の危険がないこと、共犯者との関係では従属的な立場にあったことなどを説得的に主張します。
特に薬物犯罪は、自分の力だけで再犯を防ぐことが困難ですから、専門医や薬物依存からの回復のための施設などを利用することも重要です。
薬物依存は、そこから抜け出すことは容易ではないですし、裁判官もそのことは十分理解しています。
ですから、減刑や執行猶予付き判決の獲得には周りの協力を得られる環境づくりが十分にできていることを裁判で示すことが重要です。
③身柄解放活動
覚醒剤取締法違反事件などで逮捕・勾留されてしまった場合でも、事案に応じて釈放や保釈による身柄拘束を解くための弁護活動を行います。
覚醒剤事犯では、身柄を開放することによって、その期間に再度覚醒剤に手を出すのではないか、ということが非常に危惧されています。
また、覚醒剤は被害者のいない密行性の高い犯罪ですから、共犯者との口裏合わせなどによる証拠隠滅の可能性も高いと判断されがちです。
このように、覚醒剤事件で逮捕・勾留されると、長期間身体拘束を受ける可能性が高く、保釈も認められにくいのが現状です。
しかし、そのような場合でも、証拠隠滅の恐れがないことや逃亡の恐れがないことを示す事情を示すとともに、場合によっては、一刻も早い治療のために早期に身柄を開放する必要があるとの主張をすることで、釈放・保釈の判断がなされることもあります。
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※裁判員裁判について
営利目的の輸出・輸入・製造の場合には、裁判員裁判対象事件となります。裁判員裁判では、連日の集中審理が行われますので、そのために入念な事前準備が必要となります。
弁護士としては、公判前整理手続きの中で、積極的に証拠の開示を求めるとともに、弁護側からの主張を立て、何処が争点となるのかをしっかりと把握したうえで、公判での訴訟活動に向けた準備を行う必要があります。
裁判員裁判では、集中した審理を行うために、公判までに膨大な資料を精査し、何が有利な証拠となるのかを見極めたうえで、しっかりとした主張構造を整える必要があります。
裁判員裁判において、充実した弁護を行うためには、高い弁護技術が求められます。
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