(制度紹介)薬物犯罪の刑の一部執行猶予が付く条件とは?

2022-11-08

(制度紹介)薬物犯罪の刑の一部執行猶予が付く条件とは?

前回の記事では、刑の一部執行猶予という制度をご紹介しました。
今回の記事では、薬物犯罪をした場合に刑の一部執行猶予が付く条件ついて注目します。

~薬物犯罪をした場合の刑の一部執行猶予~

前回の記事で確認した通り、刑の一部執行猶予が付けられる条件としては、刑法によって以下の条件が定められています。

刑法第27条の2
第1項 次に掲げる者が3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、1年以上5年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。
第1号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
第2号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
第3号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

しかし、実は、覚醒剤や大麻、麻薬、危険ドラッグなどに代表される薬物犯罪(薬物法第2条に定めるもの)については、刑の一部執行猶予が付けられる条件は、この刑法に定められている条件とは異なる条件になっています。
薬物犯罪に関する刑の一部執行猶予については、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」(通称「薬物法」)という法律で定められています。

薬物法第3条
薬物使用等の罪を犯した者であって、刑法第27条の2第1項各号に掲げる者以外のものに対する同項の規定の適用については、同項中「次に掲げる者が」とあるのは「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律(平成25年法律第50号)第2条第2項に規定する薬物使用等の罪を犯した者が、その罪又はその罪及び他の罪について」と、「考慮して」とあるのは「考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内において同条第1項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが」とする。

少し分かりづらいかもしれませんが、薬物法第3条では、刑法第27条の2第1項に定められている刑の一部執行猶予の条件を緩和しています。
ここでは、薬物法に定められている薬物犯罪(薬物法第2条に定めるもの)を犯した者については、「3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内において同条第1項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」に刑の一部執行猶予を付けることができるとしているのです。
具体的には、薬物法で定められている薬物犯罪を犯した者については、刑法第27条の2第1項で定められている条件のうち、前科の有無(禁錮以上の刑に処せられたことがあるかどうか等)の条件がなくなっているのです。

つまり、薬物法に定められた薬物犯罪をした者については、刑法第27条の2第1項の条件に当てはまらなかったという者についても刑の一部執行猶予が付けられる可能性があるということになります。
なお、注意しなければならないのは、たとえ薬物法に定められている薬物犯罪をしていても、刑法第27条の2第1項に元々当てはまる条件であった場合には、刑法上の取扱いになります。
ですから、薬物法によって刑の一部執行猶予を付けられるのは、刑法第27条の2第1項に当てはまらない、かつ薬物法に定められた薬物犯罪をした場合ということになります。

こうして見ると、「薬物犯罪のみ刑の一部執行猶予の条件が緩和されているのはずるい」「薬物犯罪に対して甘い」と思われるかもしれません。
しかし、刑の一部執行猶予は、一定期間は刑務所に入り矯正教育を受け、刑務所から出所した後も執行猶予期間があり、そこで問題があれば再度刑務所に入ることになるというシステムになります。
さらに、次回の記事で詳しく取り上げますが、薬物法によって刑の一部執行猶予が付けられた場合には、執行猶予期間に必ず保護観察がつくという特徴もあります。
こうしたことから、薬物法によって刑の一部執行猶予が付けられるということは、出所後の執行猶予期間中に厳しく管理を受けるということになり、そこで問題があれば再度刑務所に行くことになりますし、さらに薬物依存改善の処遇を受けることも条件となっていますから、単に監視され管理される期間が長くなっているとも捉えることができます。
そのため、条件が緩和されていること=「薬物犯罪を優遇している」というわけではないのです。

刑事事件に関わる制度では、こうした特例があることもあります。
よく理解できずに刑事手続に臨んでしまい、適切な対応をすることができなくなってしまうことは避けなければなりません。
まずは自身の刑事事件で取られる手続や制度、見通しなどをきちんと理解していくことが大切ですから、早い段階で弁護士の話を聞いておくことをおすすめします。
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