違法な所持品検査によりMDMA所持が発覚

2021-07-29

今回は、違法な所持品検査によりMDMAの所持が発覚し、逮捕されてしまった場合の弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。

~ケース~
外を歩いていたAさんは、警察官から職務質問を受け、携帯していたカバンの中身を見せるよう求められました。
カバンにはMDMAの錠剤が入っており、Aさんはカバンを固く抱きかかえ、開披を強く拒みました。
警察官らは壁際でAさんを包囲し、数時間にわたってカバンを開披するよう説得しましたが、それでもAさんはカバンを開けて中身を見せようとはしませんでした。
突然、警察官らは数人がかりでAさんを地面に押さえつけ、カバンを取り上げ、中身を確認したところ、MDMA様の物件が在中しているのを発見しました。
後程、MDMA様の物件は本物のMDMAであることが確認されたため、Aさんは麻薬及び向精神薬取締法違反の疑いで逮捕されてしまいました。(フィクションです)

~MDMAの所持罪について~

(所持する行為について)
麻薬及び向精神薬取締法第66条1項は、「ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬を、みだりに、製剤し、小分けし、譲り渡し、譲り受け、又は所持」する行為を禁止しています。
ジアセチルモルヒネ等とは、一般に「ヘロイン」のことを意味します。
MDMAは、「ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬」に該当します。

カバンにMDMAを入れて携帯する行為は、通常、「所持」に該当することになるでしょう。
MDMAの所持罪につき有罪判決が確定すると、7年以下の懲役に処せられます。

~ケースにおける問題点~

職務質問の際、警察官から「カバンの中身やポケットの中を見せてほしい」と求められることがあります。
この所持品検査は「任意」なので、Aさんの意思を制圧し、強制的にカバンの中身を確認することはできません。

求めに応じてカバンの中身を見せ、問題がなければ職務質問も終了することが通常ですが、Aさんはカバンの開披を求められるや、これを固く抱きかかえ、中身を見せることを強く拒んでいます。
これによって犯罪の嫌疑を深めた警察官らは、Aさんに対してカバンを開披するよう説得を続けています。
説得の態様、説得にかけた時間等が任意処分の範囲内といえるのであれば、通常、Aさんを説得する行為が違法な手続とされることはないでしょう。

しかし、決定的に問題がある点は、警察官らが数人がかりでAさんを地面に押さえつけ、カバンを取り上げたあと、中身を確認している点です。
このように強制的にAさんのカバンの中身を確認するためには、裁判官が発付する捜索差押許可状が必要となります。
ケースの警察官らは、無令状で強制的に捜索・差押を行っており、違法と判断される可能性が高いでしょう。

~違法収集証拠排除法則を活用した弁護活動~

ケースのような違法性の高い所持品検査が行われることは稀と考えられますが、薬物事件の初動捜査においては、時に違法な手続が実施された結果、押収された薬物や、その鑑定書の証拠能力が否定されることがあります。

最高裁判所第一小法廷昭和53年9月7日判決
「証拠物の押収等の手続に、憲法三五条及びこれを受けた刑訴法二一八条一項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるものと解すべきである」

証拠能力が否定される根拠には諸説ありますが、もしAさんのカバンから押収されたMDMAや、その鑑定書などの証拠能力が否定されれば、「AさんがMDMAを所持していた事実」を認定できなくなるので、MDMAの所持行為については無罪となります。
捜査段階であれば、検察官が公判を維持できないと判断し、不起訴処分を行うことも考えられます。

ケースで警察官らがAさんからカバンを取り上げカバンの中身を確認したのは明らかに違法な捜索・差押であり、このMDMAの証拠能力は否定される可能性が高いでしょう。
一方で、開いている鞄の中身をのぞいただけである場合などは違法性が小さいとして証拠能力が否定されない可能性があります。

捜査に違法な点があると感じたら、すぐに接見にやってきた弁護士に報告し、今後の弁護活動の計画を立てていきましょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
MDMA所持事件の捜査の適法性に疑問を感じたら、是非、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。