保釈中に逃亡し犯人蔵匿教唆罪?

2019-08-14

保釈中に逃亡し犯人蔵匿教唆罪?

~ケース~
大阪府大阪市天王寺区在住のAさんは、覚せい剤取締法違反の罪で大阪府天王寺警察署逮捕勾留され、後に起訴されてしまいました。
起訴後、Aさんが選任した弁護人の活動によって保釈決定がなされ、Aさんは保釈金300万円を納付して保釈されました。
しかし、保釈後のAさんは公判にも出頭せず、連絡を取ることも出来なくなってしまいました。
その後、警察がAさんの実家や友人宅を回ってAさんを捜索していたところ、友人BがAさんを匿っていたことが発覚し、Aさんは再び身柄を拘束されてしまいました。
友人Bは、警察の取り調べに対し、「俺は本当はAと関わりたくなかった。Aから強く頼まれたので仕方なく自宅に匿った」と供述している。
(上記の事例はフィクションです)

~逃走罪は成立しない?~

刑法97条(逃走) 裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が逃走したときは、1年以下の懲役に処する。

本条は、裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が、暴行や脅迫等の手段を用いることなく逃走する行為を罰するものです。
本条における「拘禁」とは、身体の自由の拘束をいいます。例えば、刑務所で作業に従事している服役者等を指します。

もっとも、保釈中の被告人については、すでに身体の自由を拘束されているとはいえず、拘禁されているとはいえません。
そのため、上記の事例のように、保釈された被告人が逃走してしまい裁判にも出てこないという場合、逃走行為そのものが犯罪として処罰されることはありません。

保釈の際に納付することが義務付けられる保釈金については、判決後に被告人に返還されるのが通常です。
しかし、保釈中に逃亡した場合、裁判所は決定で保釈金を没収(正確には「没取」)することができます。
そのため、上記事例においては、Aさんの納付した保釈金300万円は没収され、Aさんは返還を受けることが出来なくなるおそれがあるでしょう。

~逃亡中の被告人をかくまうと~

刑法103条(犯人蔵匿等)
 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

Aさんは、覚せい剤取締法違反で起訴されていることから、「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」に当たります。また、犯人を自宅に匿う行為については、「蔵匿」にあたります。
そのため、Aさんを自宅に匿った友人Bには、犯人蔵匿罪が成立することになります。
もっとも、犯人自身が逮捕や発見を逃れようとすることは無理もないと考えられていることから、犯人自身が自分自身を蔵匿する行為に本罪は成立しません。

ただし、犯人が他人をそそのかして自己を蔵匿・隠避させた場合については、判例上、犯人自身に本罪の教唆罪が成立すると考えられています。
その理由として、犯人自身の自己を蔵匿する行為が罪とならないのは、被告人の防御権の範囲内の行為であるからであり、他人を唆してまで目的を遂げようとする行為はそのような防御権の範囲を逸脱する行為であるということが挙げられています。
そのため、上記の事例における友人Bの「Aから頼まれたので仕方なく匿った」という供述が真実であれば、Aさんに犯人蔵匿教唆罪が成立すると考えられます。

また、公判への出頭要請を行うために来た警察官や裁判所職員に対し、暴行や脅迫を加えていた場合には、公務執行妨害罪が成立し、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処されるおそれがあります。

このように、保釈中に逃走した被告人について犯罪が成立する事案も考えられます。
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