薬物事件と没収
薬物事件と没収について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
大阪府貝塚市に住むAさんは、覚せい剤取締法違反(所持の罪)で大阪府貝塚警察署に逮捕、起訴され、裁判所で裁判を受け、「懲役1年6月 3年間執行猶予 覚せい剤約0.5グラムを没収する」との判決の言い渡しを受けました。Aさんは判決後、弁護士に「没収」とは何か尋ねました。
(フィクションです)
~没収とは~
没収とは、物の所有権を剥奪して国庫に帰属させる財産刑のことをいいます。
刑罰の種類について定めた刑法9条は、「死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。」としており、没収を刑罰の一種としています。
ここでいう「主刑」とは独立に言い渡すことができる刑罰のことで、「付加刑」とは主刑が言い渡された場合にそれに付加してのみ言い渡すことができる刑罰のことをいいます。没収は付加刑ですから、判決で没収だけを言い渡すことはできず、必ず懲役や罰金等の他の刑罰と一緒に言い渡されます。
~没収の目的~
没収は刑罰の一種ですから、制裁的の意味合いがあることは間違いありません。しかし、それよりもむしろ、社会への危険・害悪の防止、犯罪組織への利得還元の防止など保安処分としての意味合いの方が濃いとも言われています。
国によって覚せい剤を没収してしまわなければ、再びそれを使うなどする人がいて社会に危険・害悪をもたらしかねないからそれを没収してしまおうというわけです。
没収とよく混同される言葉として「押収」があります。「押収」とは、捜査機関が、対象者から任意で物の提出を受けたり、強制的に物を差し押さえたりする場合のことです。他方、「没収」は刑罰の一種で、裁判官しか言い渡すとこができません。また、「押収」は一時的に物の占有を取得したにすぎず、所有権を放棄しないかぎりのちのち還付(返却)されますが、「没収」は所有権を剥奪することなので永久的に手元に戻ってくることはありません。
「没収」は法的には「押収」されていないものでも対象とすることはできますが、実務では、「押収」されているものに限り「没収」の対象としているようです。
~「没収」には「必要的没収」と「任意的没収」~
「没収」には、必ず没収すべき「必要的没収」と、裁判官の裁量に委ねられる「任意的没収」の2つに分けられます。
必要的没収については刑法、又は特別法に規定されています。刑法に規定されている必要的没収は、賄賂の没収(刑法197条の5)です。薬物事件に関するものとしては、
・麻薬(麻薬及び向精神薬取締法69条の3第1項)
・大麻(大麻取締法24条の5第1項)
・覚せい剤(覚せい剤取締法41の8第1項)
などがあります。
これらの者は、必ず没収することとしないと、新たな犯罪を生み出すことにもなりかねず社会に害悪をもたらす危険が大きいことから必要的没収とされています。必要的没収を看過してこれを科さない判決が言い渡された場合は、法令適用の誤りとして控訴理由となります(刑事訴訟法380条)。
任意的没収については刑法19条に規定されています。
刑法19条1項 次に掲げる物は、没収することができる。
1号 犯罪行為を組成した物(偽造文書行使罪における偽造文書、賭博罪における賭金、無免許運転における自動車など)
2号 犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物(文書偽造の用に供した偽造の印章、殺人に用いた日本刀、住居侵入・窃盗のために使用した懐中電灯など)
3号 犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物(犯罪によって生じ→通貨偽造罪における偽造通貨、文書偽造罪における偽造文書など/これによって得た物→賭博に勝って得た財物、財産犯罪によって領得した財物など/犯罪行為の報酬として得たもの→殺人の依頼に応じて殺人を行ったことによって得た報酬金、窃盗幇助の謝礼として得た財物など)
4号 前号に掲げる物の対価として得た物(盗品等の売却代金、窃盗犯人が盗んだ現金で買ったものなど)
1号によると、無免許運転した際の自動車も没収される可能性はあるわけですが、保管のため(保管は検察庁がすることになるかと思います)のスペースを確保することが難しいと思われますし、手間も労力がかかります。また、日常生活の交通手段ともなっており、免許停止期間や欠格期間が経過して免許を取得すれば再び運転することができるわけですから、実務では没収されることはまずありません。
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