薬物事犯と没収②
薬物事犯と没収②
Aさんは,大阪府大阪市中央区にて覚せい剤を所持したとして、覚せい剤取締法違反(所持の罪)で逮捕されました。その後起訴されて大阪地方裁判所で裁判を受け,「懲役1年6月 3年間執行猶予 覚せい剤約0.5グラムを没収する」との判決の言い渡しを受けました。Aさんは判決後,弁護士に「没収」とは何か尋ねました。
(フィクションです)
~ 前回のおさらい ~
前回の「薬物事犯と没収①」では,没収の意義や没収の対象物などについて解説いたしました。しかし,没収の対象物であるからとって,その全てが没収されるわけではありません。そこで,今回は,没収の要件や必ず没収しなければならない場合とそうでない場合などについて解説いたします。
~ 没収の要件 ~
没収の要件については刑法19条2項に規定されています。
刑法19条2項
没収は,犯人以外の者に属しない物に限り,これをすることができる。ただし,犯人以外の者に属する物であっても,犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは,これを没収することができる。
= 犯人以外の者に属しない物 =
少し分かりにくいですが,まず,「犯人」とは,被告人自身のほか共犯者も含まれると解されています。したがって,まず,
① 犯人(共犯者を含む)自身の所有に属する物
は没収できます。また,
② 誰の所有にも属さない無主物
も「犯人以外の者に属しない物」に当たりますから没収できます。しかし,所有者不明の場合は,未だ犯人以外の者に属しない物かどうか不明ですから没収することはできません。では,例えば,犯人が所有している抵当権付きの不動産の場合はどうでしょうか?この場合は,抵当権という第三者の担保物権が付いていますから,やはり「犯人以外の者に属しない物」とはいえず(つまり,犯人以外の者に属する物といえるから),没収することはできません。以上をまとめると,
犯人以外の者が,その物につき所有権・用益物権(地上権,地益権など)・担保物権(質権,抵当権など)を有しない場合
に限って没収できるということになります。
= 犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるとき =
「犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるとき」とは,その物につき,刑法19条1項各号に該当する事実があることを認識した上で取得したという意味です。この場合であれば,
犯人以外の者が所有権・用益物権(地上権,地益権など)・担保物権(質権,抵当権など)を有する物
で没収することができます。
~ 任意的没収と必要的没収 ~
これまで,没収の対象物や没収のための要件を解説してきましたが,前回ご紹介した「刑法19条1項」を再度確認していただければわかるように,条文には「没収することができる」と書かれてあります。つまり,没収しなくてもいい訳です。このように,裁判官の裁量で没収するかしないかを決められる没収のことを「任意的没収」といいます。例えば,交通事故を起こした自動車。これは,刑法19条1項1号の「犯罪行為を組成した物」に当たり,かつ,自動車の所有が運転者の物であれば没収の要件は満たしますが,通常,没収されることはありません。自動車は財産的価値が高く,懲役刑,禁錮刑,罰金刑に加えて没収まで科すとなるとあまりにも刑が重たくなると考えられますし,実際問題,没収するとしても多大な手間と費用がかかるからです。
これに対して,裁判官の裁量の余地がない没収のことを「必要的没収」といい,法律で規定されています。例えば,覚せい剤取締法41条の8第1項には
「第41条から前条までの罪に係る覚せい剤又は覚せい剤原料で,犯人が所有し,又は所持するものは,没収する。ただし,犯人以外の所有に係るときは,没収しないことができる。」
と規定されています。前段をご覧いただくと、「没収することができる」ではなく「没収する」ですから、必要的没収というわけです。このように,覚せい剤の所有の場合は必ず没収するとされています。
* 所持の場合は? *
所持の場合は,若干,ややこしいです。なぜなら,但書で「犯人以外の所有に係るときは,没収しないことができる」とされているからです。例えば,
Aさんが所持していた覚せい剤は実はBさんの物だったという場合
です。また,「犯人以外の所有に係るとき」には,犯人の所有に属するか第三者の所有に属するかが明らかでない場合も含まれると解されますから,例えば,
道端で拾った覚せい剤をAさんが所持していた場合など
は但書きケースに当たると思われます。このケースの場合に没収する場合は,検察官が別の手続を踏むことが必要ですが,それはまた機会を改めて解説いたします。
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