薬物事犯と没収①

2019-07-05

薬物事犯と没収①  

Aさんは,大阪府大阪市中央区にて覚せい剤を所持したとして、覚せい剤取締法違反(所持の罪)の疑いで逮捕されました。その後、起訴されて大阪地方裁判所で裁判を受け,「懲役1年6月 3年間執行猶予 覚せい剤約0.5グラムを没収する」との判決の言い渡しを受けました。Aさんは判決後,弁護士に「没収」とは何か尋ねました。
 (フィクションです)

~ はじめに ~

今回は,「没収」」という日頃聞き慣れない言葉について解説いたします。薬物事犯では特に重要な言葉ですので,ぜひ参考にされてください。

~ 没収とは ~

没収とは,物の所有権を剥奪して国庫に帰属させる財産刑のことをいいます。
刑罰の種類について定めた刑法9条は,「死刑,懲役,禁錮,罰金,拘留及び科料を主刑とし,没収を付加刑とする。」としており,没収を刑罰の一種としています。
ここでいう「主刑」とは独立に言い渡すことができる刑罰のことで,「付加刑」とは主刑が言い渡された場合にそれに付加してのみ言い渡すことができる刑罰のことをいいます。没収は付加刑ですから,判決で没収だけを言い渡すことはできず,必ず懲役や罰金等の他の刑罰と一緒に言い渡されます。

~ 没収の目的 ~

没収は刑罰の一種ですから,制裁的の意味合いがあることは間違いありません。しかし,それよりもむしろ,社会への危険・害悪の防止,犯罪組織への利得還元の防止など保安処分としての意味合いの方が濃いとも言われています。
国によって覚せい剤を没収してしまわなければ,再びそれを使うなどする人がいて社会に危険・害悪をもたらしかねないからそれを没収してしまおうというわけです。

* 押収との違い *

没収とよく混同される言葉として「押収」があります。「押収」とは,捜査機関が,対象者から任意で物の提出を受けたり,強制的に物を差し押さえたりする場合のことです。他方,「没収」は刑罰の一種で,裁判官しか言い渡すとこができません。また,「押収」は一時的に物の占有を取得したにすぎず,所有権を放棄しないかぎりのちのち還付(返却)されますが,「没収」は所有権を剥奪することなので永久的に手元に戻ってくることはありません。
没収」は法的には「押収」されていないものでも対象とすることはできますが,実務では,「押収」されているものに限り「没収」の対象としているようです。

~ 没収できる物 ~

では,没収できる「物」とはなんでしょうか?
これについては刑法19条1項に規定されています。

刑法19条1項 次に掲げる物は,没収することができる。
1号 犯罪行為を組成した物
2号 犯罪行為の用に供し,又は供しようとした物
3号 犯罪行為によって生じ,若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物
4号 前号に掲げる物の対価として得た物

= 没収できる「物」とは =

「物」とは有体物をいい,動産のみならず不動産も含まれますが,利益や債権は含まれません。例外的に刑法以外の特別法によって有体物以外のものが没収の対象になる場合もあります。例えば,麻薬特例法と呼ばれる法律では,「薬物犯罪収益等」の没収の規定を定めており,薬物犯罪による収益等に当たるものであれば預金債権等の無体的財産も没収の対象となります。

= 1号(犯罪行為を組成した物) =

偽造文書行使罪における偽造文書,賭博罪における賭金,無免許運転における自動車など。

= 2号(犯罪行為の用に供し,又は供しようとした物) =

文書偽造の用に供した偽造の印章,殺人に用いた日本刀,住居侵入・窃盗のために使用した懐中電灯など。

= 3号(①犯罪行為によって生じ,若しくは②これによって得た物又は③犯罪行為の報酬として得た物) =

① 通貨偽造罪における偽造通貨,文書偽造罪における偽造文書など。
② 賭博に勝って得た財物,財産犯罪によって領得した財物など。
③ 殺人の依頼に応じて殺人を行ったことによって得た報酬金,窃盗幇助の謝礼として得た財物

= 4号(前号に掲げる物の対価として得た物) =

盗品等の売却代金,窃盗犯人が盗んだ現金で買ったものなど。

~ おわりに ~

今回は,没収の意義,没収の対象となる物について解説いたしました。没収の対象物であるからとって,その全てを没収できるわけはありませんし,できるとしても必ず没収するとは限りません。次回以降は,没収するための要件などについて解説いたします。

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