薬物事件と執行猶予制度

2019-06-25

薬物事件と執行猶予制度

~ケース~
京都府京都市下京区在住のAさんは、3年前に覚せい剤使用の容疑で逮捕、起訴され、懲役1年6カ月、執行猶予3年の有罪判決を受けていた。
Aさんは上記の有罪判決確定後、薬物更生プログラムなどを受講していたが、同プログラムに参加していた他の受講者に誘われ、覚せい剤に対する誘惑を断ち切れず、執行猶予期間内に再び覚せい剤を購入し、使用してしまった。
その後、Aさんは覚せい剤の使用が発覚し、覚せい剤使用の容疑で逮捕されてしまった。
しかし、京都府下京警察署の取調べ等に対しAさんは、再び覚せい剤を使用してしまったことに深く後悔し、真に薬物からの更生を目指したいと考えているという旨の供述をしている。

~刑の執行猶予について~

刑の執行猶予については、刑法25条1項に規定されています。同項では①前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者②前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者について、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金を受けたときに、情状により、刑の全部の執行を猶予できると規定されています。

Aさんは、3年前に覚せい剤の使用容疑で、懲役1年6カ月の有罪判決を受けています。懲役刑は「禁錮以上の刑」であるため、上記①には当たりません。更に、Aさんは刑を言い渡されてから長くとも3年しか経過していないことから、②にも当たりません。

もっとも、刑法25条2項は、仮に前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、①その刑の全部の執行を猶予されており、②1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、③情状に特に酌量すべきものがあるときについても、執行猶予判決をすることができると定めています。

まず、上記のケースのAさんについては、以前に執行猶予3年の判決を得ていることから、禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予された者(①)に当たります。
また、Aさんは、警察の取調べ等に対し、再び覚せい剤を使用してしまったことに深く後悔し、真に薬物からの更生を目指したいと考えている旨の供述をしています。この言葉どおり、判決前から再度薬物更生のための治療を徹底して受けていくことで、特に情状に酌量すべきものがあると評価される可能性があります(③)。

したがって、Aさんは、2度目の覚せい剤使用について、懲役1年以下の判決を受けることが出来れば(②)、再度の執行猶予判決が得られる可能性があります。
もっとも、初犯でも1年6カ月から2年程度の刑期が相場であるため、再犯で1年以下となることは稀です。
上記事例のような薬物の執行猶予期間中の再犯では、再度の執行猶予が付くことはまずありえないと言っても過言ではありません。

~一部執行猶予制度について~

平成28年の法改正により、刑の一部執行猶予判決を行うことが可能となりました。
例えば、「懲役2年6月に処する。その刑の一部である6月の刑の執行を3年間猶予する」という判決が言い渡された場合、懲役2年6月のうち、6か月部分については3年間執行が猶予されます。
つまり、2年間は刑務所に入らなければなりませんが、執行猶予が取り消されない限り、刑期が6か月短縮されると言うことができます。

この制度については、社会内での矯正を可能な限り取り入れるという目的があり、薬物事件における必要性を踏まえて創設されたものといえます。
上記の判決でいうと、一部執行猶予となった場合、本来より6か月早く刑務所から出て、早期に薬物依存症の更生プログラムを受けられるようになります。

また、一部執行猶予は、先ほど説明した再度の全部執行猶予よりも要件が緩くなっています。
たとえば、再度の全部執行猶予は「1年以下の懲役または禁錮」という限定がありますが、一部執行猶予は「3年以下の懲役または禁錮」となっています。
ですから、特に前科があるという方にとっては、再度の全部執行猶予よりも一部執行猶予の方がはるかに獲得しやすいと言えます。
上記制度によって薬物事件からの更生、再犯防止を目指すなら、ぜひ弁護士に相談してください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、覚せい剤を含む薬物事件のご相談のご予約、無料相談及び初回接見のご依頼を24時間受け付けております。
逮捕されてからでも、前科があっても、弁護士に相談したいと思ったら、0120-631-881までお気軽にお電話ください。