(事例紹介)MDMAの麻薬取締法違反で無罪 違法捜査認定

2022-09-20

(事例紹介)MDMAの麻薬取締法違反で無罪 違法捜査認定

~事例~

合成麻薬のMDMAを使用したとして麻薬取締法違反の罪に問われた大学生の女性(24)について、東京地裁立川支部は無罪を言い渡した。海瀬弘章裁判官は、現場での簡易検査が陰性にもかかわらず警察署に同行しようとした経緯などをふまえ「任意捜査の限度を超えた」と指摘し、「令状主義の精神を没却する重大な違法捜査」と認めた。判決は9日付。
(中略)
判決は、警察官が女性に「簡易検査で陰性なら帰宅していい」と約束したにもかかわらず、陰性と判明後も署への任意同行を求め続けた行為を「違法」と認定。警察官への暴行は、署への同行を求められるなかで「違法捜査によって直接的に誘発された」と判断した。
逮捕後に実施され陽性とされた尿鑑定については、「重大な違法がある捜査手続きと密接に関連する証拠で、同様の捜査を抑制する見地からも証拠能力を否定すべきだ」と説明した。
(後略)
(※2021年12月15日19:00朝日新聞デジタル配信記事より引用)

~MDMAと違法捜査~

今回取り上げた事例では、MDMA使用による麻薬取締法違反に問われた女性の刑事裁判で、違法捜査が認められて証拠が排除された結果、無罪となっています。
MDMAは、合成麻薬として麻薬取締法で規制されており、所持しているだけでも麻薬取締法違反となりますし、使用することも麻薬取締法違反となります。

こうしたMDMAによる麻薬取締法違反事件などを含む違法薬物事件では、しばしば違法捜査が問題になることがあります。
例えば、今回取り上げた事例では、「警察官が女性に『簡易検査で陰性なら帰宅していい』と約束したにもかかわらず、陰性と判明後も署への任意同行を求め続けた」という行為が違法捜査であったと認定され、その違法捜査と密接に関連する証拠であるとして、逮捕後に行われた尿鑑定について証拠能力を否定したとのことです。

このように、違法捜査によって入手された証拠は、違法収集証拠(その証拠の収集手続きに違法な手続があった証拠)と呼ばれ、刑事裁判で有罪・無罪や刑罰の重さを判断する際に、その証拠能力を否定し排除されることとなっています。
この法則を「違法収集証拠排除法則」と呼ぶこともあります。
この違法収集証拠排除法則は、刑法や刑事訴訟法に違法収集証拠排除法則として定められているというわけではなく、憲法第31条で定められている適正手続の保障と、憲法第35条に定められている令状主義から導き出されるものであると解釈されています。

憲法第31条(適正手続の保障)
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

憲法第35条(令状主義)
第1項 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
第2項 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

つまり、「法律に定められている適正な手続によらなければ刑罰を科されない」ということや「正当な理由に基づいて発布された令状がなければ捜索・押収ができない」ということが憲法に定められているのに、違法捜査=適正でない手続に基づいて収集された証拠が刑事裁判で使われ、それによって刑罰を受けるということになれば、憲法に定められていることに反することになります。
こうしたことから、違法捜査で収集された証拠は刑事裁判では排除しようという違法収集証拠排除法則があると考えられているのです。

しかし、実務上、違法捜査があったとしても必ずしもそれに関連する証拠が刑事裁判で排除されるわけではありません。
違法の程度が重大ではないと判断された場合には、証拠能力が否定されないという場合もあるのです。
違法捜査があったとしてどの程度の違法性なのか、証拠能力を否定できるものなのかなどは、その事件の詳細な事情を全て考慮した上でなければ判断することはできませんし、違法捜査を主張していくにも細かな検討と準備が必要になっていきます。
だからこそ、違法捜査を受けたことを主張したい、無罪を求めたいという場合には、できるだけ早い段階から専門家である弁護士の力を借りることが望ましいといえます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、これまで多くの刑事事件を取り扱ってきました。
その中には、MDMAによる麻薬取締法違反事件のような違法薬物事件も存在します。
薬物事件にお困りの方、刑事事件の違法捜査について弁護士に相談し意見を聞きたいという方は、まずはお気軽にお問い合わせください。