覚せい剤使用事件が違法捜査で不起訴や無罪に

2019-11-22

覚せい剤使用事件が違法捜査で不起訴や無罪に

覚せい剤使用事件において、違法捜査が行われた場合の弁護活動につき、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~ケース~

Aさんは覚せい剤を使用して神奈川県川崎市内の繁華街を歩いていたところ、パトロール中の警察官から、挙動不審を理由に職務質問を受けました。
ところが、Aさんは明確に応答を拒否し、「警察官から注射痕の有無を確かめさせて欲しい」と告げられたときも、上着の袖を押さえて見せないようにしました。
このようなやりとりが4時間近く行われましたが、警察官はついにAさんのベルトを数人で掴んでパトカーの中に押し込み、後部座席でAさんの袖を強引に捲ると、多数の注射痕を認めました。
Aさんは神奈川県中原警察署に連れて行かれたあと、警察官から「強制的に尿を採取することもできるんだぞ」と告げられ、観念し、尿を提出しました。
検査の結果、尿からは覚せい剤の使用を示す反応が検出されたので、Aさんは覚せい剤使用の疑いで逮捕されてしまいました。(フィクションです)

~ケースにおいて想定される弁護活動~

Aさんが提出した尿、Aさんが覚せい剤を使用したことを示す尿の鑑定書などの証拠能力を争い、不起訴処分無罪判決を目指すことが考えられます。

最高裁第一小法廷昭和53年9月7日判決は、
証拠物の押収等の手続に、憲法三五条及びこれを受けた刑訴法二一八条一項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるものと解すべきである
と判示しています。

要するに、違法捜査(違法の程度は「重大」であることが必要です)によって取得された証拠物については、裁判で有罪を立証するための証拠として利用できない場合がある、ということを意味します。

Aさんの覚せい剤使用行為を立証するためには、Aさんの尿、Aさんの尿の鑑定書などが極めて重要な証拠となります。
これらを覚せい剤使用行為の認定に用いることができない場合、裁判所が覚せい剤使用罪につき無罪判決を言い渡すことが期待できます。
さらに、検察官が裁判を維持することができないと判断し、不起訴処分を行うことも考えられます。
不起訴処分が得られれば、裁判にかけられることはなく、したがって有罪となり処罰されることも基本的にありません。

~ケースの場合はどうか?~

ケースの警察官は、職務質問の範疇でAさんに対し、腕の注射痕を見せるよう求めています。
しかし、Aさんは4時間近くにわたり、上着の袖を押さえるなどして、明確に拒んでいます。
職務質問は、任意の処分ですから、強制的に移動させたり、強制して上腕部の注射痕を確認することは原則としてできません。
強制的に注射痕を確認するためには、それを正当化するために裁判官が発付する令状が必要となります。

ところが、ケースの警察官は、身体検査令状の発付を受けることなく、Aさんのベルトを掴んでパトカーに押し込み、強引にAさんの袖を捲って注射痕を確認しています。

(職務質問において)

Aさんのベルトを掴んでパトカーに押し込む行為は、Aさんの意思を制圧し、行動の自由を奪う強度の実力行使と評価できそうです。
逮捕の要件を満たしている場合は別ですが、何の令状もなく、明確に拒否の意思を示しているAさんに対して上記行為を行った場合は、違法な実力行使として違法捜査だと評価される可能性があります。

(強引にAさんの腕を捲り、注射痕を確認した点)

上記に続いてAさんの袖を強引に捲った点は、無令状で強制的に身体検査を行ったものと評価される可能性があります。

(警察署における尿の提出)

ケースですと、尿の提出自体は任意のように思われます。
しかし、ケースの警察官はAさんに対して、強制的にパトカーに押し込んだり、強引に袖をめくったうえで、さらにそのまま警察署に連行しています。
警察官は、強制的雰囲気を出さないように努めるどころか、これまでの強制的な手段に続いて、「強制的に尿を採尿するぞ」と告げ、Aさんに尿を提出させ、検査を行っています。
このようなやり方は、違法な捜査によって作られた状況を利用して採尿したと評価できます。

~ケースの後に考えられる弁護活動~

このような経緯で取得されたAさんの尿、Aさんの尿の鑑定書等は、重大な違法性を帯びた手続により得られた違法収集証拠に当たる可能性があります。
もしそうであれば、鑑定書等を証拠として利用できない結果、証拠の不存在により無罪となることがありえます。
そこで、弁護士としては、裁判を行っても有罪を立証できる見込みがないとして、不起訴処分をするよう検察官に働きかけることが考えられます。
また、起訴された場合には、Aさんの覚せい剤使用行為を認定できる証拠がないとして、無罪の主張をすることが考えられます。

覚せい剤使用事件における捜査の適法性に疑問を感じた場合は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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