(制度紹介)執行猶予はどんな制度?薬物事件で執行猶予を得るには?

2022-10-25

(制度紹介)執行猶予はどんな制度?薬物事件で執行猶予を得るには?

このホームページで取り上げているような大麻取締法違反覚醒剤取締法違反麻薬取締法違反薬機法違反などによる薬物事件では、罰金刑が定められていない犯罪もあり、その場合は起訴されると刑事裁判になり、有罪となると執行猶予がつかなければ刑務所へ行くことになるというケースも少なくありません。
刑務所に行くことになれば、会社や学校を辞めなければならなくなったり、家族や知人との縁が薄くなってしまったりといったデメリットがあることから、執行猶予をつけてほしいというご要望をもって弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所に相談に来られる方もいらっしゃいます。

今回は、そういった執行猶予薬物事件に注目していきます。

~執行猶予とは?~

そもそも、執行猶予とはどういった制度なのでしょうか。
執行猶予とは、刑事裁判で有罪となった際に言い渡された刑罰の「執行」を一定期間「猶予」し、その執行猶予期間中に犯罪をせずに過ごした場合には、言い渡された刑罰を受けることを免れるという制度です。
執行猶予については、刑法で詳しく定められています。

刑法第25条(刑の全部の執行猶予)
第1項 次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
第1号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
第2号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
第2項 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。
ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

刑法第27条(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。

執行猶予がつけられる条件は、刑法第25条第1項に定められています。
有罪判決を受けた際には、禁固以上の前科がないか、過去に禁固以上の前科があってもその執行・免除から5年以上経っているかしているうえで、「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡し」を受けなければ執行猶予はつきません。
そのため、元々の刑罰が重く設定されている犯罪では、そもそも有罪判決の際に言い渡される刑罰の下限が「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」には収まらないものもあり、そうした場合には情状酌量による刑罰の減軽がなければ執行猶予判決は見込めないということになります。
例えば、薬物犯罪では、営利目的で違法薬物を輸入することに重い刑罰が定められていることが多いですが、
・覚醒剤の営利目的輸入:無期若しくは3年以上の懲役に処し、又は情状により無期若しくは3年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金に処する。(覚醒剤取締法第41条第2項)
・麻薬(ヘロイン等)の営利目的輸入:無期若しくは3年以上の懲役に処し、又は情状により無期若しくは3年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金に処する。(麻薬取締法第64条第2項)
といった規定があります。
これらの刑罰の下限は「懲役3年」であることから、覚醒剤やヘロインの営利目的輸入事件では、有罪判決を受けた場合に執行猶予を獲得するには、定められている刑罰の下限に当たる刑を言い渡されなければならないということになります。

そして、執行猶予はあくまで刑罰の執行を猶予しているだけであり、執行猶予期間中に再度犯罪をするなどした場合には、執行猶予は取り消され、言い渡された刑罰を受けなければなりません。

刑法第26条(刑の全部の執行猶予の必要的取消し)
次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。
ただし、第3号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第25条第1項第2号に掲げる者であるとき、又は次条第3号に該当するときは、この限りでない。
第1号 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
第2号 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
第3号 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。

刑法第26条の2(刑の全部の執行猶予の裁量的取消し)
次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
第1号 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
第2号 第25条の2第1項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。
第3号 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき。

刑法第26条に当てはまるケースでは、執行猶予を「取り消さなければならない」としていることから、必ず執行猶予が取り消されます。
対して、刑法第26条の2では、執行猶予を「取り消すことができる」としていますから、これに当てはまるケースでは、執行猶予が取り消されるかどうかは判断によるということになります。

~薬物事件と執行猶予~

薬物事件では、「初犯であれば執行猶予がつく」と言われることも多いです。
しかし、執行猶予のつく条件は、ここまで見てきたとおりのものであり、初犯だからといって必ず執行猶予がつくというものでもありません。
先ほど例として挙げた、覚醒剤やヘロインの営利目的輸入事件では、有罪判決の際に言い渡される刑罰の下限が執行猶予がつく条件ぎりぎりであったように、薬物事件の内容によっても執行猶予がつくかどうかは変わってきますし、余罪の有無や犯行をしていた期間、態様、当事者の反省や再犯防止の環境が整っているかどうかといったことでも執行猶予の有無は異なるでしょう。

だからこそ、薬物事件執行猶予を目指すのであれば、早い段階から弁護士と公判に向けた準備を整え、公判の場で有利な事情を示すことのできるようにしておくことが大切です。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、公判において執行猶予を求めていきたいというご相談・ご依頼も多く受け付けています。
覚醒剤や大麻、麻薬、危険ドラッグといった違法薬物に関わる薬物事件の刑事手続にお悩みの際は、遠慮なく弊所弁護士にご相談下さい。