(制度紹介)「刑の一部執行猶予」とはどんな制度?

2022-11-01

(制度紹介)「刑の一部執行猶予」とはどんな制度?

前回の記事では、執行猶予という制度を取り上げましたが、今回の記事では、執行猶予のうち、「刑の一部執行猶予」という制度を紹介します。
覚醒剤取締法違反事件や大麻取締法違反事件、麻薬取締法違反事件などの薬物事件では、しばしばこの「刑の一部執行猶予」という判決が下されることがあります。
この制度はいったいどういった制度なのでしょうか。
詳しく見ていきましょう。

~刑の「一部」執行猶予~

刑の一部執行猶予」とは、文字通り、有罪判決で下された刑罰の一部について執行猶予とする制度を指します。
裁判で判決を言い渡されるときには、例えば、「被告人懲役3年に処する。その刑の一部である懲役1年の執行を2年間猶予する」といった形で言い渡されます。
この場合、懲役3年という刑罰のうち、2年は刑務所に入って懲役刑に服する必要がありますが、残りの1年については2年の執行猶予となり、刑務所から出て生活することができます。
ただし、残りの懲役1年の刑罰は、あくまで執行猶予となっているだけですから、2年という執行猶予期間中に問題があれば、執行猶予は取り消され、猶予されていた分の懲役1年という刑罰を受けることになります。

刑法では、その第27条の2以下で、刑の一部執行猶予について詳しく定めています。

刑法第27条の2
第1項 次に掲げる者が3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、1年以上5年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。
第1号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
第2号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
第3号 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
第2項 前項の規定によりその一部の執行を猶予された刑については、そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から、その猶予の期間を起算する。
第3項 前項の規定にかかわらず、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった時において他に執行すべき懲役又は禁錮があるときは、第一項の規定による猶予の期間は、その執行すべき懲役若しくは禁錮の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から起算する。

刑法第27条の3
第1項 前条第一項の場合においては、猶予の期間中保護観察に付することができる。
第2項 前項の規定により付せられた保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。
第3項 前項の規定により保護観察を仮に解除されたときは、第27条の5第2号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せられなかったものとみなす。

刑法第27条の4
次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第3号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第27条の2第1項第3号に掲げる者であるときは、この限りでない。
第1号 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、禁錮以上の刑に処せられたとき。
第2号 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられたとき。
第3号 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないことが発覚したとき。

刑法第27条の5
次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
第1号 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
第2号 第27条の3第1項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守しなかったとき。

刑法第27条の7
刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、その懲役又は禁錮を執行が猶予されなかった部分の期間を刑期とする懲役又は禁錮に減軽する。
この場合においては、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日において、刑の執行を受け終わったものとする。

一般に「執行猶予」として知られる「刑の全部執行猶予」と同様、「刑の一部執行猶予」も何の条件もなくつけられるというわけではなく、つけるには条件があります。
そして、こちらも「刑の全部執行猶予」同様に、「刑の一部執行猶予」の執行猶予期間については、保護観察を付けることができます。
さらに、「刑の一部執行猶予」の執行猶予期間中に問題があった場合も、「刑の全部執行猶予」の執行猶予期間同様、その執行猶予が取り消される可能性があります。

この「刑の一部執行猶予」という制度は、平成28年に施行された、比較的新しい制度です。
刑の一部執行猶予という制度は、刑務所などの施設に入って矯正教育などの処遇を受けること(施設内処遇)と、社会内で保護観察などの処遇を受けること(社会内処遇)を組み合わせることで、より更生を目指すという目的のもと作られた制度です。
刑の全部執行猶予か実刑かという2択だけでは、特に再犯を繰り返してしまうような人にとっては効果的ではないのではないかという考えから、この刑の一部執行猶予という制度ができたのです。

刑事事件で一般に知られる「執行猶予」は、先ほども挙げた通り、「刑の全部執行猶予」のことであることが多いでしょう。
しかし、今回紹介した「刑の一部執行猶予」という「執行猶予」の種類も存在します。
この「執行猶予」に限らず、刑事事件では一般に知られている・イメージされている用語に細かく種類があったり、別のものを指していたりすることがあります。
こうしたイメージのずれ・齟齬を解消することは、刑事手続きに臨むためには非常に重要でしょう。
そのためにも、早い段階から弁護士のサポートを受け、不明なことをなくしていくことが望ましいです。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、覚醒剤や大麻、麻薬、危険ドラッグなどに関連する薬物事件を含めた刑事事件の当事者となってしまった方、そのご家族などから、刑事弁護についてのご相談・ご依頼を受け付けています。
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次回の記事では、特に薬物事件に注目して刑の一部執行猶予という制度を紹介していきます。