おとり捜査

2021-03-11

おとり捜査について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所仙台支部が解説します。

警察官Xが覚せい剤取締法違反(譲り受けの罪)で逮捕されたBさんを取調べ中、Bさんから「博多に住むAから譲り受けた」との供述を得ました。その後、Xは、Aさんの覚せい剤密売に関する証拠の収集に努めましたが、決定的な証拠を得ることはできませんでした。そこで、Xは、Bさんの知人になりすまし、Aさんに「Bさんから紹介してもらった」「覚せい剤を売ってくれないか」と持ちかけました。Aさんは一度断ったものの、Xから執拗に覚せい剤を要求され、取引の値段も上げられたことからこれに応じることにしました。そして、Aさんは待ち合わせ場所に行ったところ、Xが現れ、Xから「シャブは?」と言われたため約束通り覚せい剤をXに渡したところ、Xから「警察だ」と言われ、その場で覚せい剤取締法違反(譲り渡しの罪)で逮捕されてしまいました。
(フィクションです)

~覚せい剤取締法違反~

覚せい取締法41条の2第1項では、

 覚せい剤を、みだりに、所持し、譲り渡し、譲り受けた者

を「10年以下の懲役」に処するとしています。また、その第2項では営利の目的でこれらの行為をした者を「1年以上の有期懲役」に処し、又は情状により「1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金」に処するとしてます。

~おとり捜査~

おとり捜査とは、捜査機関(警察など)又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に秘し(隠し)て犯罪を実行するよう働きかけ、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙する捜査手法をいいます。

ところで、刑事手続について定めた刑事訴訟法にはおとり捜査についての規定がありません。取調べ、捜索、差押え、逮捕など何らかの捜査をするにあたっては必ずその法的根拠が必要です。では、おとり捜査はどうでしょうか?
この点、最高裁判所(最判平16.7.12)は、

「少なくとも、直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において、通常の捜査方法のみでは犯罪の摘発が困難である場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象にして行われるおとり捜査は、刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容される。」

としています。

※刑事訴訟法197条1項
 捜査については、その目的を達成するために必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に定めのある場合でなければ、これをすることができない。

~任意捜査であれば無制約に認められるか?~

おとり捜査が任意捜査であることはお分かりいただけたと思います。しかし、任意捜査であるからといって無制約に何でもかんでも許されるわけではありません。任意捜査であっても、強制捜査の場合と同様、人々の人権を侵害するおそれは十分あるのです。そこで、最高裁は、「必要性」と「相当性」という基準を用いて任意捜査にも歯止めをかけようとしています。

おとり捜査の「必要性」は認められると考えられています。それは、特に覚せい剤事犯の場合、密行性が高いため(被害者、目撃者がおらず密室で行われることが多い)、通常の捜査手法では摘発は困難と考えられるからです。

この点、おとり捜査は「犯意誘発型」と「機会提供型」に分かれ、犯意誘発型は「相当性」が認められるが、「機会提供型」は認められないと考えられています。
「犯意誘発型」とは、もとから犯罪を犯す意思のない者に対して積極的に働きかけを行って犯意を誘発するおとり捜査、「機会提供型」は、もともと犯罪を犯す意思のある者に犯行の機会を提供するおとり捜査のことをいいます。
「犯意誘発型」の場合、犯罪を防止するべき国家(捜査機関)が犯罪を作りだしている点、適正手続きの原則を侵害している点から「相当性」が認められず違法とされているのに対し、「機会提供型」の場合は、犯罪を犯す意思のある者に機会を提供したにすぎず、国家が犯罪を作出したとはいえないことから「相当性」が認められ適法と考えられています。

本件は、Aさんが取引を断っているにもかかわらず、警察官Xから執拗に取引を持ちかけられていることに鑑みれば「犯意誘発型」に当たるとも考えられます。

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