薬物事件にかかる違法性の認識と故意
薬物事件にかかる違法性の認識と故意について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が解説します。
【ケース】
京都府宇治市在住ののAさんは、学生時代の先輩であるXから、「LAD」という薬品を海外から輸入して欲しいと頼まれた。
Aさんは、「LSD」に名前が似ているため違法薬物ではないかとXに尋ねた。
Xによると、名前は似ているがLSDとは異なる薬品であり、薬機法で規制されている違法ドラッグではないということであった。
それを聞いて安心したAさんは、海外から指定された「LAD」を輸入しXに渡し報酬を受け取った。
Aさんが数回海外から「LAD」を輸入したところ、ある日、京都府宇治警察署によって麻薬取締法違反(輸入)の疑いで逮捕された。
Aさんは、Xから「違法でない」と聞いていたので故意について争いたいと考えており,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所に初回接見を依頼した。
(フィクションです)
~違法薬物~
LSDは正式名称をリゼルギン酸ジエチルアミドといい,ドイツ語の「Lysergsaurediethylamid」を略してLSDといいます。
ところで,英語での名称は「Lysergic Acid Diethylamide」であり略すとLADとなります。
すなわち,LSDとLADは略す元の言語が異なるだけであり同じ薬物を指していることになります。
日本において薬物は,覚せい剤取締法,麻薬取締法,大麻取締法,あへん法のいわゆる薬物四法に加え薬機法(正式名称:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)によって規制されています。
刑法は明確性の原則という,条文から一見して何が違法となるのかが明確でなければならないという原則があります。
大麻やあへんは植物および抽出物そのものですのでそれほど大きな問題はありませんが「覚せい剤」等の場合は問題が発生する可能性があります。
すなわち,「覚せい剤」とは何を指すのか問題となる物質が「覚せい剤」であるのかどうかがわからないということが考えられます。
そこで,日本の薬物の規制は,薬物に含まれる具体的な成分を指定することによって規制対象を明確にしています。
覚せい剤の場合,フェニルアミノプロパンおよびフェニルメチルアミノプロパンおよび塩類,麻薬や違法ドラッグは様々な成分が指定されています。
LSDすなわちリゼルギン酸は,麻薬取締法によって1970年より規制対象となっています。
そのため,Xの言う通りLADは違法ドラッグではありませんが麻薬取締法によって規制される薬品になります。
~違法性の認識と故意~
刑法犯の成立には故意が必要とされており(刑法38条),故意が認められない場合,過失犯の処罰規定がなければ処罰されないことになります。
今回のケースでAさんはXから違法ドラッグではないと聞かされており,自分が規制されている薬品を輸入しているという認識はなかったので,故意がなかったと考えられるかもしれません。
しかしながら,故意責任の本質は,規範に直面したにもかかわらず,あえてそれを乗り越えて実行行為に出たことに対する道義的非難にあります。
すなわち麻薬輸入の故意が認められるためには,規範に直面する程度の意味の認識が必要です。
ただし,刑法は一般人に向けられた行為規範であるので,専門家的認識までは不要とされています。
つまり「麻薬」であるという明確な認識はなくとも,麻薬を含む身体に有害で違法な薬物かもしれないという認識があれば,麻薬の素人的認識があったといえ,故意が認められます。
なお,判例は犯罪の成立には違法性の認識は不要であるとしており,違法性の認識は故意の要件でないとしています。
しかし,違法性の認識を欠いたことにつき相当の理由が有る場合には責任が阻却されるとする判例もあります(東京高判昭55・9・26)。
~Aさんの場合~
今回のケースでAさんはLADがLSDと同じように違法な薬物でないかとXに尋ねています。
その際のXによる違法ドラッグではないという回答によってAさんは安心してLADを輸入しています。
そのため,AさんはLADが違法な薬物であるという認識を持たずに輸入をしていたことになり責任が阻却される可能性はあります。
しかし,Xは単なる高校の先輩であり,LADが違法薬物であるかどうかを判断する専門家的知見を持っていたとはいえないでしょう。
また,Xは薬機法で規制されている違法ドラッグでないという回答をしたのであり,違法な薬物でないと回答したわけではありません。
AさんはXのそういった言葉を信じて違法なものではないと思い込んだだけですから違法性の認識がなかったことについて相当な理由があったといはいえないでしょう。
したがって今回のケースの場合Aさんには麻薬輸入の故意がなかったというのは難しいでしょう。
しかしながら,違法なものではなかったと認識するにあたり,相当な理由が認められれば責任は阻却される可能性はあります。
事件の具体的な事情によって相当な理由があったかどうかが判断される事になるでしょう。
また,そういった事情を的確に主張しなければ責任が阻却されることは難しく,刑事裁判で有罪となってしまいます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は薬物事件などの刑事事件専門の法律事務所です。
薬物事件で違法性の認識や故意について争いたいとお考えの方は0120-631-881までご相談ください。
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