【事例解説】覚醒剤所持の再犯 執行猶予は可能?(前編)
覚せい剤所持の再犯で起訴された事例を参考に、執行猶予と一部執行猶予について前編・後編に分けて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
事例
Aさんは、3年前に札幌地方裁判所で覚醒剤の使用及び所持で懲役1年6月執行猶予3年の刑を言い渡されました。
その後は真面目に生活していましたが、仕事のストレスから再び覚醒剤に手を出してしまいました。
そして、Aさんは札幌北警察署に覚醒剤所持の疑いで現行犯逮捕されてしまいました。
Aさんは、今度は実刑判決になるのではないかと不安を感じています。
(フィクションです。)
執行猶予について
覚醒剤の使用および所持については、10年以下の懲役が法定刑となっています。
懲役刑というのは、刑務所に収容され、刑務作業を負う刑罰のことです。
懲役刑が執行されると、刑務所に収監されることになります。
ただ、刑の執行が猶予されると、直ちに刑務所に収監されることはなく、社会で通常の生活を起こることができます。
言い渡された刑の執行が猶予されることを「執行猶予」といいます。
執行猶予の要件
執行猶予には、刑の全部の執行猶予(刑法25条)と刑の一部の執行猶予(刑法27条の2)とがありますが、まずは前者の要件について説明します(出典/e-GOV法令検索)。
刑の全部の執行を猶予することができるのは、
①前に禁固以上の刑に処せられたことがない者、または、
②前に禁固以上の刑に処せられた者であっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁固以上の刑の処せられたことがない者
が、3年以下の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金の言い渡しがなされる場合です。
この場合、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間で刑の全部の執行を猶予することができます。
覚醒剤の使用・所持の法定刑は10年以下の懲役ですので、3年以下の懲役を言い渡すことは可能です。
初犯であれば、執行猶予が付くことが多いようです。
覚せい剤事件で再度の執行猶予の可能性は?
覚醒剤のような薬物事犯は、残念ながら再犯率が高いです。
上のケースのように、執行猶予期間中に再び薬物に手を出してしまう事案は少なくありません。
実は、執行猶予期間中に再び罪を犯してしまった場合でも、再度執行猶予となる可能性はあります。
それを「再度の執行猶予」といいます。
再度の執行猶予となるには、以下の要件を全て満たす必要があります。
①前に刑の全部の執行猶予が付された懲役または禁固の判決を受けていること。
②執行猶予期間中に、1年以下の懲役または禁錮の判決を受けること。
③情状に特に酌量すべきものがあること。
④保護観察中に罪を犯したものでないこと。
覚醒剤事件では、初犯で懲役1年6月執行猶予3年となるのが相場となっています。
再犯の場合、1年以上の懲役の判決が言い渡される可能性が極めて高く、覚醒剤事件で、再度の執行猶予となる可能性はかなり低いと言えるでしょう。