薬物事犯捜査の違法性を追及する弁護士

2020-11-05

今回は、覚せい剤取締法違反被疑事件において、捜査の適法性に疑いがある場合の弁護活動につき、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。

~ケース~

覚せい剤取締法違反の前科(覚せい剤の所持・使用)があるAさんは、外出中、警察官から職務質問を受けたため、任意で福岡県八幡西警察署に同行しました。
Aさんは薬物から手を断ち切ることができず、時々覚せい剤を使用するなどしていましたが、職務質問を受けた際には、特に問題となる物件を所持していなかったので、堂々と所持品検査にも応じ、問題のないことが確認されました。

警察官らは、八幡西署において、Aさんに対し、任意で尿を提出するよう求めましたが、数日前に覚せい剤を使用したことを思い出したAさんは、尿の任意提出を拒みました。
Aさんはその後の取調べを拒否し、取調室を出ようとしましたが、警察官らはAさんの肩を掴み、「尿に問題がなければ無事に帰れる」、「あまり拒むようなら、カテーテルで強制的に尿を採取する。痛いし恥ずかしいぞ」などと告げ、5時間にわたり、尿を任意提出するよう説得を続けました。

Aさんは任意提出を拒み続けるのに疲れてしまったため、仕方なく尿を提出しました。
尿からは覚せい剤の使用を示す反応が検出されたため、Aさんは覚せい剤取締法違反の疑いで逮捕されてしまいました。(フィクションです)

~手続の違法性を主張し、不起訴処分や無罪判決の獲得を目指す~

判例によれば、手続に「令状主義の精神を没却するような重大の違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合」においては、証拠の証拠能力が否定されます。
これを、違法収集証拠排除法則といいます。
証拠能力が否定されると、どれほどその証拠に証明力が認められるとしても、裁判で証拠とすることができません。

ケースにおいては、Aさんが覚せい剤を使用したことを立証するため、尿の鑑定書や、Aさんの供述調書が作成されるでしょう。
これらの証拠についても、先行する違法な手続と密接に関連するものと判断された場合、その証拠能力が否定される可能性があります。
この場合には、Aさんの覚せい剤使用行為を立証することができなくなります。
裁判所がAさんの覚せい剤使用行為を認定できなければ、当然、覚せい剤使用行為について有罪とされることはありません。
また、検察官が覚せい剤使用行為を立証できないと判断した場合には、不起訴処分がなされる場合もあります。

~ケースにおいて問題となりうる点~

薬物を使用しているとみられる被疑者を警察署に任意同行し、尿を任意提出するよう求める捜査手法はよく用いられるものです。
しかし、任意捜査として認められる限度を超えて、長時間にわたり説得が続けられた場合や、取調官の言動に強制などの問題があった場合には、手続に違法があったと認められることがあります。

捜査機関による説得が何時間を超えると違法である、という線引きはできません。
被疑者の態度や、嫌疑の程度などを総合考慮し、個別具体的に決定されることになります。

~ケースの場合はどうか?~

Aさんが覚せい剤を使用していると疑われている理由は、①同種前科があること、②尿の任意提出を頑なに拒んでいるからであると思われます。
しかし、先に行われた所持品検査において、覚せい剤やその使用器具が発見されたわけでもなく、Aさんにおいて特異な言動がみられるわけでもありません。
この程度の嫌疑で、明示に取調べを拒む被疑者を5時間も取調室に留め置き、説得行為を続けた点については、違法とされる可能性があります。

また、強制採尿に伴う苦痛の内容を告げるなどした点についても、問題とされる余地があります。
さらに、強制採尿令状が当然に発付されるかのように振る舞い、尿の任意提出を求めている点についても、「令状審査の先取り」として、違法とされる可能性があります(東京地方裁判所平成23年3月15日決定)。

~捜査の適法性に疑問を感じたら、弁護士に相談~

捜査機関は、捜査を行うにあたり、強大な権限を行使することができますが、あらゆる手法が許容されるわけではありません。
適法な捜査がなされるよう監視することも、弁護士の大切な使命です。
捜査の適法性に疑問を感じたら、すぐに弁護士と相談しましょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
ご家族が覚せい剤使用の疑いで逮捕されてしまった方は、是非、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。