覚せい剤事件のおとり捜査②

2019-06-10

覚せい剤事件のおとり捜査②

~ケース~

東京都八王子市在住のAさんは、覚せい剤取締法違反の疑いで警視庁八王子警察署逮捕されました。
その後、勾留により10日間拘束されたあと、覚せい剤取締法違反で起訴されてしまいました。
しかし、Aさんは警察による捜査がおとり捜査であって違法であったと主張しています。
というのも,Aさんは覚せい剤のいわゆる「売人」をしており,覚せい剤の取引に赴いたところ,取引相手は警察官であり覚せい剤取締法違反の疑いで現行犯逮捕されたという経緯があるからです。
(フィクションです)

~おとり捜査の適法性~

前回,おとり捜査の適法性について,①直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において,②通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難であり,③機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象に行う,という3つの要件を満たす場合には任意捜査として許容されるとした判例を紹介いたしました。
では,おとり捜査逮捕されたと主張するAさんがどうなってしまうのかをいくつかのパターンに分けて考えていきましょう。

~パターン①~

捜査員が積極的にAさんにコンタクトを取り,覚せい剤を購入したい旨の打診をした場合。

上記事例において,何らかの理由でAさんが他人に対して覚せい剤を販売する意思を持っていなかったとします。
この場合に,捜査員からAさんに覚せい剤の購入を打診することは,Aさんに覚せい剤譲渡という犯罪の犯意を誘発することになります。
このようなおとり捜査は犯意誘発型と呼ばれ、前回説明したとおり国家による犯罪の作出として許されないといえます。
そうすると,おとり捜査の結果押収した覚せい剤は違法収集証拠として扱われ、証拠能力が否定される、すなわち裁判で証拠として採用されない余地が出てきます。
その場合は、犯罪を証明する証拠に欠けることとなり、Aさんは裁判で無罪となる可能性が出てくるでしょう。

~パターン②~

Aさんが覚せい剤の販売を常習して繰り返していたところ,その情報を得た捜査員が覚せい剤を購入したい旨の打診をした場合。

このような場合はいわゆる機会提供型のおとり捜査であるため,適法な捜査であるとされる可能性が高いです。
Aさんは覚せい剤の販売を常習的に繰り返しており,捜査員による特段の働きかけがなくとも覚せい剤譲渡の犯罪行為を行っていたといえるでしょう。
また,覚せい剤の譲渡の場合,所持や使用と異なり,通常の捜査方法のみでは犯罪事実の証明が困難といえます。
このパターンでは,覚せい剤譲渡をしているという情報そのものは警察は得ている形になりますが,それだけでは譲渡の事実があったと証明することは困難です。
加えて,覚せい剤譲渡の場合には直接の被害者となる者はいません。
したがって,判例のいう3要件を満たしていることから、適法なおとり捜査として許容される可能性が高いでしょう。

~パターン③~

Aさんは覚せい剤の販売を常習して繰り返していたところ,その情報を得た捜査員が覚せい剤を購入したい旨の打診をした。
取引の際,Aさんは覚せい剤を持って来ていなかったため,捜査員が今すぐ持って来てほしい旨打診し,Aさんに覚せい剤を持って来させた場合。

平成16年の判決はこのパターンに似た事件でした。
当該事件では,大阪へ東京から運び人に大麻樹脂を持って来させたところを逮捕されたというものでした。
被告人側は「捜査員からの執拗な取引への働き掛けがあり,犯意誘発型である」と主張しましたが,働きかけの時点で被告人が大麻樹脂を売ろうと買い手を求めていたのであるから,おとり捜査として適法であると判示されました。

~おとり捜査で逮捕されてしまったら~

平成16年判決では,覚せい剤などの薬物犯罪においてはおとり捜査が認められる場合があるという旨判示されました。
しかし,おとり捜査が常に適法な捜査として認められるわけではありません。
たとえ平成16年判決が提示した3要件に該当しても,その他の事情から捜査として許容される範囲を超えているとして違法な捜査とされる余地はあります。
いくら捜査のためとはいえ、不必要に被疑者・被告人の人権を侵害してはならないからです。
また,おとり捜査を含めてどのような点が違法だったと主張するかによって,刑事裁判で主張が認められるかも異なってきます。
違法なおとり捜査があったことを正しく主張し,裁判で認めてもらうためには刑事事件の弁護経験の豊富な弁護士に弁護を依頼することをお勧めします。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件専門の法律事務所です。
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