【事例解説】大麻の輸入を教唆した事例(中編)
大麻の輸入を教唆した事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
【事例】
愛知県内に住む大学生のAさんは、地元の先輩であるBさんに「海外だと大麻が安く手に入る。それを現地で買って日本に輸入してくれたら高く買い取る」と伝えられました。なおBさんは冗談のつもりでAさんにそう伝えたまででした。しかし、それを真に受けたAさんは、ちょうど海外に行く用事があり、お金欲しさに大麻を日本に輸入しようと考えました。
そうしたところ、日本への帰国時にAさんは、空港の手荷物検査で大麻を所持が発覚し、逮捕されることになりました。
(フィクションです)
【今回の事例で成立しうる犯罪】
②Bさんが問われうる犯罪
Bさんには、大麻取締法違反の間接正犯と教唆犯のいずれに問われるでしょうか。
まず間接正犯とは、他人を道具のように利用して、実行行為を行う場合を指します。
そしてこの間接正犯が認められるには、①被利用者を道具のように一方的に支配・利用すること、②特定の犯罪を「自己の犯罪」として実現する意思の2点を充足する必要があります。
今回の事例では、Bさんは、あくまでAさんの先輩というだけで、一方的な支配利用関係が認められないうえ、Aさんは自ら故意を持って大麻取締法違反を行っています(①②ともに不充足)。
よって、Bにはおよそ間接正犯は成立しないといえます。
次に、教唆犯とは刑法61条1項(出典/e-GOV法令検索)に定められる犯罪類型で「人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する」とされています。つまり、ある人に犯罪を実行するように唆して、その人が犯罪を実行した場合には、唆した人(教唆犯)にも、犯罪を実行した人と同様の刑罰を科すという規定です。
今回の事例では、Bさんには教唆行為が認められ、Aさんは実際に輸入行為を行っています。
もっとも、Bさんは冗談のつもりでAさんに当該教唆行為を行っているため、教唆行為について故意が認められるかが問題となります。
この点については、見解の対立がありますが、通説としては、被教唆者が犯罪の結果を発生させることの認識・認容があれば、教唆行為についての故意が認められるとされます。
そのため、BさんにAさんが犯罪の結果を発生させることの認識・認容があると認められた場合には、Bさんには、Aさんへの大麻取締法違反の教唆犯が成立します。