薬物事件捜査の範囲と限界

2019-04-01

薬物事件捜査の範囲と限界

~ケース~

警察官Pは、Aが兵庫県小野市の自宅を拠点に覚せい剤を密売しているとの疑いを強め,A方の捜索差押えを実施する必要があると考えた。
Pは、神戸地方裁判所社支部裁判官に対し,Aに対する覚せい剤取締法違反(営利目的の譲渡)の被疑事実でA方の捜索差押許可状の発付を請求し、捜索すべき場所をAの自宅とする捜索差押え許可状の発付を受けた。
Pは,Aが玄関のドアチェーンを掛けたまま応対してきたため、A方ベランダの外にあらかじめ待機させていた捜査員Qらを、Pの合図でベランダの柵を乗り越えて窓ガラスを割って解錠し、A方に入らせた。
その後、PはAに対し捜索差押許可状を呈示し。捜索を開始した。
(上記事例はフィクションです)

~薬物事件捜査の範囲と限界~

上記の事例では、Pは捜索差押許可状(いわゆる令状)に基づいて、A方を捜索しています。
そのため、令状なく捜索差押えが行われたわけではなく、この点について違法はありません。

もっとも、上記の事例において、Pは、部下の捜査官Qらに命令して、ベランダの柵を超えて、窓ガラスを割って解錠し、Aの自宅内に入らせています。
刑事訴訟法は、警察官の行う捜索差押えについて、令状に基づいてさなれる必要があると規定されているにとどまり、その際の捜査手法について具体的に規定されているわけではありません。
そのため、このような態様での捜査が適法といえるかどうかが問題となります。

刑事訴訟法111条1項本文は「差押え状、記録命令付差押状又は捜索状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる」と規定しています。
同条は、直接的には裁判所の行う執行について規定したものですが、警察などの行う捜査においても準用されています。
そのため、P及びQらの行為が、上記の「必要な処分」に当たるといえる場合には適法な捜査であるといえることになります。

刑事訴訟法111条は、捜索差押えという主たる処分に附随する処分として認められた捜査手法であるといえます。
また、警察や検察の行う捜査は、一般的に、必要かつ相当な範囲でのみ認められるべきであるという比例原則が妥当します。
したがって、上記の「必要な処分」については、その捜査手法が必要かつ相当であるといえる場合に限り、認められるものであると考えられます。

では、上記事例でのP及びQらの行為が必要かつ相当であるといえるでしょうか。

上記事例では、Pは、Aが自宅を拠点として覚せい剤を密売しているとの疑いを持っています。
覚せい剤等の薬物事件においては、密行性が高く、証拠物である覚せい剤そのものや注射器などを容易に廃棄することが可能であるといえます。
そのため、覚せい剤事件では、一般論として、証拠保全の必要性が高いといえます。

また、上記事例では、Aが玄関のドアチェーンを掛けたまま応対しています。
そのため、玄関からA宅に入るためには相当の時間を要し、その間に証拠物を破棄される恐れがあるといえます。
したがって、そのような証拠の破棄を防ぐためにベランダの柵を乗り越え、窓ガラスを割って解錠する必要性があったといえます。

さらに、窓ガラスを割るという行為についても、玄関ドアそのものを破壊する行為などと比べると、Aが被る財産的損害は軽微であるといえ、捜査としての相当性も認められるといえます。
したがって、P及びQらの行為は「必要な処分」として適法であるといえる可能性が高いです。

なお、Pは捜索差押許可状を捜索の着手後にAに呈示しており、令状の事前呈示を怠っています。
しかし、証拠保全の必要性がある場合には、捜索着手後に近接して令状呈示を行うことも認められていることから、この点について、違法があるとまではいえないでしょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所弁護士は、刑事事件を専門とした弁護士であり、捜索差押えをきっかけとした逮捕や取調べのご相談も受け付けています。
覚せい剤などの薬物事件についてお悩みの方は、弊所の弁護士まで、ご相談ください。
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