麻薬で一部執行猶予は可能?

2021-04-01

麻薬と一部執行猶予について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。 

Aさんは自宅の家宅捜索を受け,MDMAを所持していたとして麻薬及び向精神薬取締法違反(所持罪)で逮捕され,その後起訴されました。Aさんは,1年前に刑務所を出所(覚せい剤取締法違反(使用)で服役)したばかりでした。Aさんと接見した弁護士は,裁判で一部執行猶予判決を獲得できないか検討しています。
(フィクションです)

~麻薬及び向精神薬取締法~

麻薬とは一体何なのでしょうか。

麻薬及び向精神薬取締法では、麻薬について定義しており、

● 国際条約のひとつである麻薬に関する単一条約の規制物質から大麻を除いたもの
● 向精神薬に関する条約の付表1に対応したもの(主に幻覚剤)

をいうとされています。。

なお、麻薬及び向精神薬取締法の「向精神薬」とは、向精神薬に関する条約の付表2,3,4に対応するものでそれぞれ順番に第1種,第2種,第3種向精神薬と呼ばれています。
なお覚せい剤も付表2に含まれていますが日本では別途,覚せい剤取締法で規制されます。

罰則は麻薬か向精神薬かどうか、麻薬がヘロインかどうか、によって異なります。

ヘロインを輸出・輸入,製造した場合1年以上の有期懲役、ヘロイン以外の麻薬は10年以下の懲役です。
向精神薬を輸入、輸出、製造、製剤、小分けした場合5年以下の懲役となります。

ヘロインを製剤、小分け、譲渡、譲受、交付、所持した場合10年以下の懲役、ヘロイン以外の麻薬を製剤、小分け、譲渡、譲受、又は所持した場合7年以下の懲役、向精神薬を譲り渡し、又は譲り渡す目的で所持した者は3年以下の懲役となります。
営利目的の場合はさらに刑が加重されますが今回は省略します。

~薬物事件における一部執行猶予~

麻薬等の薬物事件を犯した方に対する一部執行猶予については,「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律(以下「法律」)」に定められています。この法律によると,一部執行猶予判決を受けるには次の要件が必要とされています(法律3条)。

1 薬物使用等の罪を犯したこと
2 本件で,1の罪又は1の罪及び他の罪について3年以下の懲役又禁錮の判決の言い渡しを受けること
3 刑事施設における処遇に引き続き社会内において規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが,再び犯罪をすることを防ぐために「必要」であり,かつ,「相当」であること

なお,薬物使用等の罪については,他の犯罪と異なり,前科の要件は必要とされていません。つまり,Aさんのような累犯前科を持つ方であっても,一部執行猶予判決の対象となり得ます。

では,一部執行猶予が対象とする「薬物使用等の罪」とは何でしょうか?
主な犯罪は次のとおりです(法律2条2項参照)。

同項2号 大麻の所持又はその未遂罪
同項4号 覚せい剤の所持,使用等又はこれらの罪の未遂罪
同項5号 麻薬及び向精神薬取締法の所持罪等

一部執行猶予は実刑判決の一部です。つまり,執行猶予付き判決とは異なることに注意が必要です!また,麻薬等の薬物使用等の罪に関しては必ず保護観察が付きます(法律4条1項)。さらに,保護観察の順守事項を守らなければ,一部執行猶予の言い渡しが取り消されることがあり(法律5条2項),再び刑務所に収容されます。

麻薬等の薬物事件で一部執行猶予判決をお望みの方又はそのご家族の方がおられましたら,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の0120-631-881までお気軽にお電話ください。