覚せい剤所持事件のおとり捜査の適法性
覚せい剤所持事件のおとり捜査の適法性
~ケース~
大阪府岸和田市の大阪府岸和田警察署の警察官Pは、覚せい剤所持事件で前科のあるBから、「Aという男が岸和田市の倉庫内で覚せい剤を販売している」という情報を得た。
Pは、数日間Aの身辺を捜査したところ、Aが覚せい剤使用及び所持の前科がある者数名と親しくしていることが判明したが、Aが覚せい剤の密売を行っているという決定的な証拠は見つからなかった。
PはなんとかしてAを逮捕してやろうと思い、Aに対し、「覚せい剤を買いたいという者がいるから入手できないだろうか」と電話で話を持ち掛けた。
Aは、一度は断ったものの、何度もPが要求したため、覚せい剤の取引に応じることとした。
Pは、Aが待ち合わせ場所に赴いたところを覚せい剤取締法違反で現行犯逮捕し、覚せい剤を証拠物として押収した。
(上記事例はフィクションです。)
~おとり捜査の適法性について~
上記事例においては、Aは現に覚せい剤を所持しており、覚せい剤取締法は覚せい剤の所持、譲渡し、譲受けについて10年以下の懲役に処すると規定しています。
また、営利目的での所持、譲渡し、譲受けについては、1年以上の有期懲役というさらに重い刑罰が科される可能性があります。
そのため、PがAを覚せい剤取締法違反の罪で現行犯逮捕したこと及び覚せい剤を証拠物として押収したことは適法であるとも思えます。
もっとも、上記の事例において、警察官PはAに対し「覚せい剤を買いたいという者がいる」と話を持ち掛けており、AはPの電話がなければ覚せい剤取締法違反で逮捕されることはなかったといえます。
上記のPの行った捜査は、いわゆるおとり捜査と呼ばれるものですが、このようなおとり捜査が許されるのかが問題となります。
最高裁判所においておとり捜査の適法性が争われた裁判例では、以下のように、おとり捜査は任意捜査として許容されると判断されています。
「直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において、通常の捜査方法のみでは犯罪の摘発が困難である場合、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象にして行われるおとり捜査は、刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容される。」(最判平16.7.12)
もっとも、任意捜査といえども無制約に許されるというわけではなく、おとり捜査を行う必要性及び相当性が認められる必要があります(刑事訴訟法197条1項本文)。
上記の事例では、確かに覚せい剤等の薬物の密売事件においては直接的な被害者が存在せず、犯行も隠密に行われることが多いことから、事件そのものが発覚しにくく、検挙が困難であるといえます。
そのため、「通常の捜査方法のみでは犯罪の摘発が困難である場合」にあたります。
また、Aは以前から覚せい剤の密売を行っていた疑いが強く、現に覚せい剤を用意してPとの待ち合わせ場所に赴いていることから、Pは犯行の機会を付与したにすぎず、Aは「機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者」に当たるとも思えます。
しかし、上記の事例においては、AがPからの申出を一度断ったにもかかわらず、PはAに対し、さらに何度も覚せい剤の購入を持ち掛けています。
そのため、Pの上記のおとり捜査はAに対し、犯行の機会を提供したにとどまらず、Aの犯行を行う意思を誘発させたと評価される可能性があり、捜査の相当性を欠き、違法捜査であると評価されるおそれがあります。
おとり捜査が違法と認定された場合、Pの捜査行為が違法である以上、これを直接利用してAを現行犯逮捕した行為及び覚せい剤を押収した行為についても、おとり捜査の違法性が承継され、違法となる可能性もあります。
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