覚せい剤使用事件で強制採尿

2019-11-02

覚せい剤使用事件で強制採尿

覚せい剤を使用し強制採尿された事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~ケース~

兵庫県丹波篠山市在住のAさんは、覚せい剤を使用し、自宅付近を歩いていたところ、兵庫県篠山警察署の警察官に声をかけられ、職務質問を受けました。
警察官は、Aさんの受け答えが覚せい剤などの薬物の使用をうかがわせものであったことから、Aさんに尿検査を求めました。
Aさんが頑なに拒否するため、警察官は強制採尿令状を取得し、病院へ連れていくことを検討しています。(フィクションです)

~覚せい剤使用罪について解説~

覚せい剤取締法第19条は、
① 覚せい剤製造業者が製造のため使用する場合
② 覚せい剤施用機関において診療に従事する医師又は覚せい剤研究者が施用する場合
③ 覚せい剤研究者が研究のため使用する場合
④ 覚せい剤施用機関において診療に従事する医師又は覚せい剤研究者から施用のため交付を受けた者が施用する場合
⑤ 法令に基いてする行為につき使用する場合
を除き、何人も、覚せい剤を使用してはならないとしています。
これに違反し、覚せい剤を使用すると、10年以下の懲役に処せられます(覚せい剤取締法第41条の3第1項1号)。

~警察による強制採尿の可否~

Aさんに声をかけた警察官は、令状により、強制的にAさんの尿を取得し、鑑定しようとしています。
このような強制採尿を伴う捜査を行うことはできるのでしょうか。

判例(最高裁昭和55年10月23日決定)は、
「(強制採尿は)被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべきであり、ただ、その実施にあたつては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきものと解するのが相当である」
と判示しており、強制力を用いた採尿を適法に行い得る場合があることを認めています。

そして、捜査機関が強制採尿をするには捜索差押令状(家宅捜索などに利用される令状)によるべきであり、右令状には、医師をして医学的に相当と認められる方法で行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠であるとしています。

上記の強制採尿令状が発付されたとして、令状により、Aさんを採尿場所まで強制的に連れて行くことができるか否かが問題となります。
Aさんに強制採尿を行う段階では逮捕が行われておらず、Aさんの身体の自由を制約する根拠がないように思えるからです。
この点につき、判例(最高裁平成6年9月16日決定)は、任意同行が不可能な場合に、強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができ、その際、必要最小限度の有形力を行使することができるとしています。

~Aさんに強制採尿令状は発付されるか?~

強制採尿令状による採尿は、判例も「最終的手段」と位置付けており、Aさんが尿検査を拒んだからといって、直ちに強制採尿令状が発付されるわけではありません。
もっとも、Aさんに十分な覚せい剤使用の嫌疑があり、警察官の再三にわたる尿検査の説得にも応じない、という場合には、強制採尿令状が発付される可能性が高まります。

強制採尿令状により取得した尿とその鑑定書は、Aさんの覚せい剤使用を立証する重要な証拠となります。

~ケースの場合、取得された尿から陽性反応が検出されるとどうなるか?~

覚せい剤使用の疑いで現行犯逮捕される可能性が極めて高いと思われます。
逮捕され、勾留決定がなされると、最長23日間も身体拘束を受けることになります。
その間に捜査が行われることになりますが、警察がAさんの自宅を捜索し、覚せい剤やその使用に用いる器具などを押収されることが十分考えられます。
その場合、覚せい剤所持罪の嫌疑もかけられることになると思われます。

~身柄解放活動~

薬物使用事件においては、捜査中に釈放されにくく、起訴後に保釈請求をすることでやっと釈放されるケースが多いです。
したがって、薬物使用事件における身柄解放活動は、保釈の実現に向けて重点が置かれることになります。

~執行猶予付き判決の獲得を目指す~

覚せい剤使用事件の場合、初犯であれば執行猶予付き判決を得られる見込みが相当程度あります。
執行猶予を目指すに際しては、保釈中に薬物依存の治療を受ける、信頼できる身元引受人を用意するなど、自身に有利な事情を見つけ出すことが重要です。
ですので、起訴されて保釈が認められた場合は、弁護士のアドバイスを受けながら、執行猶予付き判決の獲得を目指して行動することをおすすめします。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件少年事件を専門とする法律事務所であり、覚せい剤使用事件についてもご相談いただけます。
ご家族が覚せい剤使用事件を起こし、お困りの方は、是非、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

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