覚せい剤を使用して自動車を運転中に人身事故

2020-05-21

今回は、覚せい剤を使用して自動車を運転中に人身事故を起こしてしまった場合の弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。

~ケース~

埼玉県川越市のAさんは、覚せい剤を使用して自動車を運転中、その薬理作用のためハンドルやブレーキを適切に操作することができず、歩道上の歩行者Vに衝突してしまいました。
歩行者Vは軽傷を負うに留まりましたが、これを目撃したWが事故を警察と消防に通報しました。
駆け付けた埼玉県川越警察署の警察官は、Aさんの言動から薬物使用を疑ったため、Aさんから任意で尿の提出を受け、検査を行ったところ、覚せい剤の使用を示す反応が検出されました。
Aさんはその場で現行犯逮捕されてしまいました。(フィクションです)

~Aさんに成立する犯罪~

Aさんには危険運転致傷罪及び覚せい剤使用罪が成立する可能性が高いと思われます。
加えて、自宅で覚せい剤を保管するなどしていた場合は、覚せい剤所持罪の嫌疑もかけられることになります。

(危険運転致傷罪)
アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた場合は、十五年以下の懲役に、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処せられます(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条1号)。

ケースのAさんは、覚せい剤の薬理作用により、ハンドルやブレーキを適切に操作することができない状態に陥っていました。
このような状態は「薬物の影響により正常な運転が困難な状態」に該当するでしょう。
その上で自動車を運転したところ、適切にハンドルやブレーキを操作することができず、よってVに自動車を衝突させ傷害を負わせてしまった、という事実関係のもとでは、Aさんに危険運転致傷罪が成立する可能性が高いと思われます。

危険運転致傷罪の法定刑は15年以下の懲役です。

(覚せい剤使用罪)
Aさんは法定の除外事由がないのに、覚せい剤を使用しています。
当然、覚せい剤の使用行為は犯罪です。
Aさんには覚せい剤の使用罪も成立することになるでしょう。
法定刑は10年以下の懲役となっています(覚せい剤取締法第41条の3第1項1号)。

(覚せい剤所持罪)
Aさんには覚せい剤を「所持」している嫌疑もかけられるでしょう。
警察が捜索差押許可状の発付を受け、Aさんの自宅を捜索することが考えられます。
Aさんの自宅から覚せい剤が発見されれば、覚せい剤所持罪を立証する証拠となりえます。

覚せい剤所持罪の法定刑も10年以下の懲役となっています(覚せい剤取締法第41条の2第1項)。

~今後の手続と弁護活動~

危険運転致傷罪も、覚せい剤の使用罪、所持罪も、長期間勾留され、起訴されてしまう可能性が高い犯罪類型といえます。
全ての嫌疑につき並行して捜査を行う場合は、捜査段階において最長23日間身体拘束を受ける可能性があります。
被疑事実を分けて捜査を行い、逮捕が繰り返される場合には、捜査段階における身柄拘束の期間がさらに伸びることも考えられます。
身体拘束期間が長引かないように、早期に弁護士を依頼し、逮捕を繰り返さないよう働きかける必要があります。

起訴された後は、保釈を請求することができます。
保釈許可決定が出れば、保釈金を納付し、外に出ることができます。
ただし、複数の事件に渡るため、保釈金が高額になることが予想されます。
家族だけで必要な金額を準備するのが厳しい場合は保釈保証金の支援を受けるべきでしょう。
無事に事件が解決すれば、有罪の場合であっても、保釈金は戻ってきます。

~目指す判決~

ケースの場合は、Vが軽傷を負うに留まっています。
高いハードルを越える必要はありますが、刑事弁護に熟練した弁護士の適切な弁護活動により、執行猶予付き判決を獲得できる可能性はあります。

執行猶予付き判決を獲得できる可能性を高めるためには、Vと示談を成立させ、自動車を処分し、身元引受人を用意した上で、薬物依存の治療を開始することにより、再犯防止に努めていることを裁判官にアピールする必要があります。

Aさんが二度とケースのような事件を起こさないだろう、ということを裁判官に納得してもらうことが重要です。
弁護士のアドバイスを受けながら、より有利な事件解決を目指して活動していきましょう。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
ご家族が危険運転致傷・覚せい剤使用、所持事件を起こしてしまい、お困りの方は、是非、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。