(事例紹介)MDMAの密輸入 税関に告発され逮捕された事例

2023-01-03

(事例紹介)MDMAの密輸入 税関に告発され逮捕された事例

~事例~

名古屋税関清水税関支署は21日、合成麻薬MDMAの錠剤を大量に密輸したとして麻薬取締法違反の疑いで静岡南署などに逮捕された(中略)容疑者(25)=ベトナム国籍=を関税法違反容疑で静岡地検に告発した。
同支署によると、密輸された錠剤は4007錠。ドイツから成田空港に空輸され、横浜税関川崎外郵出張所の職員が1月11日にエックス線や目視による検査で発見した。サプリメントのボトル2個に各千錠ずつ、コーヒー豆の袋に約2千錠が詰められ、段ボール箱に収められていたという。末端価格は計約2千万円に上るとされる。
同支署によると、段ボール箱の送り先が容疑者の自宅になっていたという。同支署が県警に通告。静岡南署と県警薬物銃器対策課が捜査を進め、容疑者ら2人を麻薬取締法違反の疑いで逮捕した。
(後略)
(※2022年2月22日あなたの静岡新聞配信記事より引用)

~違法薬物の密輸入と税関~

今回の事例では、名古屋税関清水税関支署が、MDMAの密輸をした関税法違反の容疑で静岡地検に容疑者を告発したという旨が報道されています。
税関薬物事件告発するというケースは耳慣れないかもしれませんが、MDMAなどの違法薬物の密輸入事件では、税関違法薬物を発見したことから違法薬物密輸入行為が発覚し、税関が捜査機関に対して告発を行うというケースも珍しくありません。
今回は、税関MDMAなど違法薬物密輸入を告発して刑事事件になるというケースについて注目していきます。

まず、違法薬物密輸入は、単にその薬物の規制を定めている法律(今回のMDMAであれば麻薬取締法)に違反するだけでなく、関税法にも違反することになります。

関税法第109条
第1項 第69条の11第1項第1号から第6号まで(輸入してはならない貨物)に掲げる貨物を輸入した者は、10年以下の懲役若しくは3,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第2項 第69条の11第1項第7号から第9号まで及び第10号に掲げる貨物を輸入した者は、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

関税法の「輸入してはならない貨物」としては、以下のように、麻薬や向精神薬、大麻や覚醒剤などの違法薬物が含まれています。

関税法第69条の11第1項
次に掲げる貨物は、輸入してはならない。
第1号 麻薬及び向精神薬、大麻、あへん及びけしがら並びに覚醒剤(覚醒剤取締法にいう覚醒剤原料を含む。)並びにあへん吸煙具。ただし、政府が輸入するもの及び他の法令の規定により輸入することができることとされている者が当該他の法令の定めるところにより輸入するものを除く。

こうしたことから、MDMAを密輸入することは、麻薬取締法違反だけでなく、関税法違反にもなるのです。

税関職員は、警察官や検察官などと異なり、捜査権をもつ人たちではありません。
しかし、関税法では、以下のようにして犯則事件の調査・処分について定めています。

関税法第119条第1項
税関職員は、犯則事件を調査するため必要があるときは、犯則嫌疑者若しくは参考人(以下この項及び第121条第1項(臨検、捜索又は差押え等)において「犯則嫌疑者等」という。)に対して出頭を求め、犯則嫌疑者等に対して質問し、犯則嫌疑者等が所持し、若しくは置き去つた物件を検査し、又は犯則嫌疑者等が任意に提出し、若しくは置き去つた物件を領置することができる。

犯則事件とは、租税犯に関する事件のことを指し、ここでは主に関税法違反事件のことを指します。
関税法第119条以降では、こうした関税法違反事件の際の税関職員の権限について定めており、税関職員は、関税法違反事件については、関税法違反の容疑者に対して出頭を求めたり、令状をもって捜索や差押え(関税法第121条)をしたりできるという、刑事事件と同じような捜査権をもつ内容となっています。
そして、その調査の結果、犯則がある=関税法違反であると判断される場合には、税関は検察官に告発を行わなければならないとも定められています(関税法第144条)。

つまり、税関職員は、関税法違反に関してのみ、一般の刑事事件で行われる捜査に類似したことができ、さらにその結果関税法違反であると判断された場合には、検察官への告発を行うということになっているのです。
ですから、今回の事例でも、麻薬取締法違反の容疑で警察署などに逮捕された容疑者について、今度は税関関税法違反の容疑で検察庁に告発をするという流れになっていたのです。

MDMAなどの違法薬物密輸入事件では、薬物法に違反するものだけでなく、関税法違反も関係してくることから、なかなか事件の流れ全体や見通しが分かりづらいところがあるでしょう。
だからこそ、刑事事件化した段階で一度弁護士の話を聞き、事件の流れや見通しなどを把握したうえで刑事手続に臨まれることをおすすめします。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件化した段階から公判活動まで、刑事事件を多く取り扱っている弁護士が一貫してサポートを行っています。
違法薬物密輸入税関告発されてしまった、家族が麻薬取締法違反の容疑で逮捕されてしまったという状況でお困りの方は、まずはお気軽にお問い合わせください。