現行犯逮捕で大麻押収

2019-08-19

現行犯逮捕で大麻押収

埼玉県ふじみ野市に住むAさん(55歳)は、仕事を終え帰宅途中、警察官から職務質問を受けました。Aさんは、警察官からポケットの中など全て見せるよう。所持品検査を求められました。Aさんは、ズボンのポケット内に大麻を入れていたことからこれを拒否しましたが、警察官から「拒否するなら令状持ってくるけど?」と言われました。そこで、Aさんは渋々、ポケットの中から大麻を取り出し、警察官に提出しました。警察官の検査の結果、大麻であることが判明したため、Aさんは大麻取締法違反(所持罪)の現行犯で埼玉県東入間警察署逮捕されてしまいました。なお、大麻はその場で差し押さえられました。逮捕の通知を受けたAさんの妻は、薬物事件に強い弁護士にAさんとの接見を依頼しました。
(フィクションです)

~ はじめに ~

捜査機関が対象者から強制的に物を領得することは、対象者の人権(プライバシー権)を侵害するおそれの大きい行為であることから、事前に裁判官のチェックを経て裁判官が発する令状を取得し、その令状に戻づいて行われることが原則です。
しかしながら、捜査の現場では、令状取得の手続を行う余裕がない場合があります。特に、薬物事件では、薬物の差押に裁判官の令状を常に必要とすると、容易に薬物などを処分されるなどの罪証隠滅行為が図られ、その結果、真実の発見、追及という刑事訴訟法の目的を達せられられなくなるおそれが生じてしまいます。そこで、刑事訴訟法では、

令状によらない差押え、捜索、検証

を認めています。

~ 令状によらない差押え、捜索、検証 ~

令状によらない差押え、捜索、検証は、刑事訴訟法220条に規定されています。以下、本件と関係のある規定を抜粋いたします。

刑法220条1項
 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第199条の規定(逮捕状による逮捕)により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があると認めるときは、左の処分をすることができる。(以下、略)。

1号 略
2号 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること

3項
 第1項の処分をするには、令状は、これを必要としない。

「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第199条の規定(逮捕状による逮捕)により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があると認めるとき」とされているため、令状によらない差押え、捜索、検証をするか否かは完全に捜査機関の判断に委ねられています。3項を見ていただければお分かりのように、捜査機関が逮捕の現場で差押、捜索、検証をするには「令状を必要としない」とされています。

では、なぜ、このような規定が設けられたのでしょうか?
これついては、学説上、相当説と緊急処分説の2つの説が唱えられていますが、実務では相当説をとられています。
相当説は、逮捕の現場には逮捕事実に関連する証拠が存在する蓋然性が高く、これを差し押さえることが真実発見にも資することから、令状によらない差押え等を可能とする説です。

~ 「逮捕の現場」とは ~

逮捕の現場とは、逮捕した場所との場所的同一性、具体的には被疑者の身体及びその支配下にある場所をいいます。
路上で逮捕された場合は、まず被疑者の身体が捜索の対象となるでしょう。また、警察官に自宅のガサに踏み込まれた場合はその建物全体や附属するもの(支配が及ぶもの(小屋、車など)も対象となるでしょう。
なお、大麻を所持している場合は、持っている物が大麻かどうか確かめる必要があり、これが確認できない限り逮捕はできませんから、まず任意の提出を求められ、大麻と確認された時点で逮捕され、その後、大麻(のようなもの)として差し押さえられる、というのが一般的な流れかと思われます。

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